遺言とは、死後に意思表示の効力が生じる法律行為のことです。
遺言は「ゆいごん」または「いごん」と読みます。「後世に言い遺す」意味の一般用語では「ゆいごん」と読みます。民法に定められた法律用語であることを意識して使う場合、「いごん」と言うことが多いです。私は両方「ゆいごん」と言っています。
遺言によって法律的な効果が生ずる主な事項は以下の通りです。
- 相続に関する事項 → 相続分の指定、遺産分割の方法の指定、推定相続人の廃除など
- 相続以外の財産の処分 → 遺贈、一般財団法人の設立、信託の設定など
- 身分に関する事項 → 認知、未成年後見人および未成年後見監督人の指定など
- 遺言執行に関する事項 → 遺言執行者の指定、遺言執行者の報酬の定めなど
- その他 → 特別受益の持戻しの免除、祭祀承継者の指定など
「遺言がなぜ必要か」の前に、遺言がない場合、亡くなった人(被相続人)の財産(相続財産)はどうなるか、原則を説明します。
亡くなった人(被相続人)の財産(相続財産)は、死亡後直ちに法律で権利があると定められた人(相続人)に包括的に承継されます。相続人が数名あるときは(共同相続)、相続開始後遺産分割確定までの間、原則として(可分債権・債務は除き)共同相続人の共有になります。共有割合は法定されています。(法定相続分)
共有のままでは相続人が単独ですべてを処分することができません。そこで、共同相続人の協議により相続財産の終局的な帰属先を決定します。これが、遺産分割協議です。遺産分割協議は、共同相続人が全員参加し、相続分および分割方法を協議します。相続分は、「いくらもらうか」、分割方法は「どの財産をもらうか」のことです。協議は、全員の合意により成立します。協議が成立しない場合は、家庭裁判所へ調停を申し立てます。それも不成立のときは、審判へ移行します。
「少しでも多くもらいたい」「介護で苦労した分、多くもらって当然だ」「不動産より現金が欲しい」など、相続人が複数いれば思惑もそれぞれです。協議が整わず、調停・審判に持ち込まれる件数が、年々増加しています。
相続人の協議に委ねるのではなく、相続分および分割方法に自身の意思を反映させ、相続人間の紛争を避け、スムースに財産を承継させる方法が、「遺言」です。
遺言が特に必要と考えられるのは、以下の場合です。
- 遺言者が法定相続分と異なる配分をしたいとき
- オーナー企業の株式、農地など、相続によって分散させたくない資産があるとき
- 遺産分割協議が難航する懸念があるとき
- 遺産の種類や数が多い
- 子供がいない
- 再婚し、後妻および先妻との子がある
- 推定相続人同士、疎遠である、仲が悪い
- 推定相続人の中に行方不明者や浪費者がいる
- 推定相続人が、一人もいないとき
- 推定相続人以外の人へ遺産を配分したいとき
- 内縁の配偶者
- 息子の妻(お嫁さん)
- 孫(子がいる場合)
- 老人ホーム、市町村、自治会など企業、法人、団体など
遺言があれば、法定相続に優先して遺言内容に従って相続されます。
誰に何を「相続させる」と書けば、相続分の指定および分割方法の指定の意味になります。その財産は、遺産分割協議を経ずに、指定された法定相続人の所有になります。
もっとも、共同相続人全員の同意により、遺言で指定された配分以外の方法で相続することが可能です。例えば、不動産と預金を「相続させる」と指定された相続人が、不動産を相続したくない場合、その不動産だけを相続放棄することはできません。そのときは、他の共同相続人に遺産分割協議を要請します。
法定相続人以外に財産を与えるときは、遺贈の方法によります。「相続させる」ことはできません。誰に何を「遺贈する」という文言を用います。ある特定の財産を遺贈する特定遺贈と財産の全部または一定の割合を遺贈する包括遺贈があります。
法定相続人に遺贈することもできます。「相続させる」方が、「遺贈する」より不動産登記手続きが簡便にできるので、一般的には「相続させる」を用います。相続放棄は一定の期間を過ぎると認められませんが、特定遺贈の場合は、いつでも放棄することが可能です。
「遺言の効果は理解しても、実際遺言書を書くのは、どうも気が進まない」という方の理由としては、以下のことが挙げられます。
うちの家族は仲が良いので、もめごとにならない
家族の中心を失うと、家族がまとまらない心配があります。仮にもめる心配がなくても、遺族に遺産分割協議の負担をかけないという利点があります。
遺言するほどの財産がない
金額よりむしろ感情の問題に発展し、収まりがつかなくなる場合があります。相続財産のほとんどが居住用不動産という場合は、特に遺産分割協議が難航しやすいです。
一度遺言したら内容を変えられない
遺言を作成した後、内容を変更したいときは、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。新しく遺言を作成し、その中に前の遺言を撤回する旨を明示する方法が確実です。
遺言した財産は処分できない
遺言した財産を生前に処分すること自体は自由にできます。注意が必要なのは、例えば、相続分がほぼ均等になるように「甲不動産は長男に、乙定期預金は次男に、残りはすべて長女に」と遺言したあとに、甲不動産を売却する場合です。この場合、遺言中の「甲不動産は長男に」の部分だけが撤回されたことになり、次男、長女の部分は変わりません。つまり、長男だけが何も相続できなくなります。このように、当初意図したバランスが大きく崩れる場合は、遺言を再作成します。
遺言はまだ早い
生存中の財産の使いみちや推定相続人の状況などをできる限り見通したうえで、遺言を作成することが望ましいです。
しかし、気を付けなければいけないのは、遺言者の遺言能力です。遺言能力とは、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識、判断できる意思能力です。
遺言能力がない者の遺言は無効です。遺言作成は、精神的にも負担がかかります。健康なうちがベストです。
遺言の作成方法
遺言は、普通方式と特別方式があります。特別方式は、文字通り特別な場合ですので、終活においては普通方式の遺言を検討します。普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言 | 遺言者が遺言文の全文、日付、氏名を自書し押印します。一人で作成でき、 費用もかかりません。偽造、改ざん、紛失の恐れがあります。法律上の要件を 満たしていない場合、無効になります。また、相続発生時に、裁判所の検認手続きが必要です。 あまりお勧めできない方法です。 |
公正証書遺言 | 裁判官や検事などの経験者から任命された公証人が作成し、 原本は公証役場で保管されます。遺言者の意思、遺言能力に関しても公証人が確認します。 証人2名の立ち合いが必要なので、遺言の内容を完全に秘密にすることはできません。 検認の必要はありません。費用はかかりますが、最もお勧めの方法です。 |
秘密証書遺言 | 遺言者が遺言書を作成し、公証人と証人の前に封印した遺言書を提出して 自己の遺言書である旨と氏名、住所を申述します。遺言内容は秘密にして、 遺言証書の存在を明らかにすることが目的です。遺言内容を自書する必要はありません。自筆証書遺言と同様に検認手続きが必要です。あまり利用されていない方法です。 |
いきいき終活テラスでは
遺言公正証書の原案作成、公証人との調整、証人立ち合いなど、遺言作成をサポートします。遺言執行者の指定もぜひお願いします。
遺言公正証書原案作成 | 遺言公正証書記載財産額×0.5%+5万円(上限50万円)(税別) ※公証人にかかる費用は別途必要です。 |
証人立ち合い | 一人 1万円(税別) |
遺言執行報酬 | 遺言公正証書記載財産額×2%+相続人数×5万円(税別) |